第8回 小泉八雲と俳句の翻訳など

平成22年9月1日
元 南山伏町町会会長 妹尾一男

日本の俳句を初めて明治時代に翻訳したのが小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)である。
芭蕉の「古池や蛙とびこむ水の音」を、次のように英訳している。

Old pond―
frogs jumping in―
sound of water.

八雲は1850年生まれ、父はアイルランド人の軍医で母はギリシア人、イギリスとフランスで教育を受けたが、在学中に片目を失明、20歳でアメリカに渡り文筆を業としたが、明治23年39歳のとき来日し、松江中学に赴任し、小泉節と結婚した。熊本、神戸を経て上京し、明治28年に帰化。翌年東京帝国大学の講師となり、7年間英文学を教えたが、学生にたいへん好評で、退職時の月給は450円で、八雲の後任に傭われたのが、「海潮音」の訳詩集で文名高い上田敏や夏目漱石などであったが、漱石の月給は125円であったという。晩年早稲田大学でも講師として英文学を教えたが、明治37年に亡くなっている。その僅か14年間に、後に18巻に及ぶ全集が発行されたように、日本文化に関する膨大な著作を残し、欧米の先進国に日本を紹介した。大久保の旧居跡は現在、新宿区立公園となって胸像が立っている。

そこで俳句だが、八雲の訳した芭蕉の句はその後多くの人が訳しているが、それが少しずつ或いは全く異なる単語で綴られている。訳した人の感性、知識、性格などが出てくるのか、それとも日本語と英語のどちらかが、または両方が複雑すぎるのか興味はつきない。そこで、いくつかの例を示す。
俳句の翻訳に熱心な研究家の宮森麻太郎は、こう訳す。

The ancient pond!
A frog plunged ―
The sound of the water!

彼はその著書に自身の訳と共に、新渡戸稲造など著名な学者の手になる翻訳を掲載しているので、その一部を紹介する。

Into an old pond
A frog took a sudden plunge,
Then is heard a splash.
by Inazo Nitobe

Old garden lake!
The frog thy depth doth seek,
And sleeping echoes wake.
by Hidesaburo Saito

最後にもう1つ、アメリカの小学校1年生用の教科書に載っているものを紹介する。

私見ではラストのワンフレーズが気に入っている。

An old silent pond…
A frog jumps into the pond splash!
silence again.
(以上は国会図書館の資料による)