第16回 稲盛経営哲学

平成27年3月15日
南山伏町町会会長 妹尾一男

「京セラ」「KDDI」という超一流会社の創業者であり、2010年には負債総額2兆3千億円という巨大倒産の「日本航空」の再建を託され無報酬で会長に就任、見事3年で再建を果たした稲盛和夫氏は日本経済界のカリスマ的存在である。

しかも20年前から、自らの経営体験から得た経営の要諦を中小企業経営者に説く「盛和塾」をボランティアで塾長として運営している。
現在その塾生は8千人を超え海外でもこれまでアメリカやブラジルに支部があったが、いま中国で支部開設の動きが急速に進んでいるという。2007年に無錫に始まり、北京、上海、青島、広州、大連そして12年に重慶に支部が誕生。国内54塾、海外16塾に達する。

彼が中国を訪問すると何千人もの中小企業経営者が講演を聴きに集まるがこのように話す。
「欲望にもとづく経営は破綻する。利益を得るにも人間として正しい道を貫かねばならぬ。他者を思いやる『利他の心』すなわち『徳』である。従業員に対する愛、顧客に対する奉仕、社会に対する貢献がなければ、永続的に繁栄を続けることはできない」

もともと「徳」という概念は中国から日本へ渡来したもので、孔子をはじめ聖人賢人が、「人間の道」を説いたのは、治乱興亡が繰り返される歴史の中で、人心が荒廃し「利己」のみを追い求める人が増えるのを戒めたからで、共感も得やすかった。

中国での彼の著書『生き方』が翻訳出版され、すでに販売部数が130万部を超えている。

また北京大学と清華大学で講演を行った時、講演会は大盛況で、修了後に著者へのサインを求める学生や一般市民が殺到し、警察官が出動するほどだった。その際、北京大学の国際MBA学院長から、『生き方』を今後テキストとして使いたいという申し出があった。

2004年4月に中国共産党中央学校で講演の機会を得た。孫文が1924年に神戸市で行った講演の一部を引用した。
「日本は明治維新後、欧米の文明を取り入れ繁栄を遂げようとしている。その西洋の物質文明は科学の文明であり、武力の文明となってアジアを圧迫している。これは中国で古来からいわれている『覇道』の文明である。

しかし東洋ではそれより優れた『王道』の文化がある。王道の文化の本質は道徳、仁義である。

あなたがた日本民族は、欧米の覇道の文明を取り入れると同時に、アジアの王道文化の本質をももっている。日本がこれからのち世界の文化の前途に対して、西洋の覇道の番犬となるのか、東洋の王道の干城となるのか、日本国民がよく考え慎重に選ぶことにかかっている。」

「だが残念ながら日本は、この孫文の忠告に耳を貸さず覇道に走り、他国に迷惑をかけ自国もみじめな結果となった。この失敗を踏まえて、やがて世界有数の経済大国となり巨大な軍事力を持つことになろう中国は、覇道主義に走らず徳をもって王道に則った国家運営、経済活動を行い、アジアのみならず世界の範となってほしい」

するとその夜、会談した中央党学校校長の曽慶紅国家副主席が「原稿を胡錦濤主席はじめ中央幹部に回付した。中国は覇道の道は決してとらない。このことを日本国民に伝えてほしい」

以上は、稲盛和夫著「燃える闘魂」(毎日新聞社発行 1,500円)の紹介です。ぜひご一読をお推めします。